税金相談室
2007年5月10日 22:00:00
駐在員事務所の税務
質問:アメリカに派遣された社員に日本から送金支給される給与の源泉徴収と給与関係税のため、日本本社名義で連邦雇用主番号を取得しました。派遣社員の仕事は米国市場に関する情報収集です。IRS から法人税申告書の提出を要求する通知書が送られてきました。法人税の申告は必要でしょうか?
答え:日本企業がアメリカの法人税の対象となるのは、どのような活動を行った場合かを検討します。長期派遣社員にアメリカで給与を支給し、連邦雇用主番号を取得して源泉徴収と給与関係税申告を行う日本の企業は、内国歳入法(米国税法)上、商行為に従事していることと見なされます。これらの活動は日本企業が米国での存在を表明し、米国における最も初期の段階の形態である駐在員事務所を設立したことを意味します。
駐在員事務所が連邦法人税の対象となるかどうかは、日米租税条約の「恒久的施設」Permanent Establishment (略称 ‘PE’) の解釈を出発点とします。条約は日本企業が米国において課税されるのは、米国内に恒久的施設(PE)を有する場合に限るとしています。恒久的施設 (PE) とは、支店、事務所、工場、作業所など、事業を行う一定の場所を指します。次の活動は恒久的施設 (PE) の例外とされ、米国における事業活動とは見なされないと規定しています。。
①情報を収集すること。
②物品または商品を購入すること。
③商品を保管、展示または引渡しすること。
④その他の準備的、補助的な性格の活動を行うこと。
⑤仲立人、問屋、その他の独立の地位を有する代理人(独立代理人)を通じて業務を行うこと。
ただし、独立代理人以外の、企業に代わって行動する者が、米国内で企業の名において契約の締結を反復行使する権限を有する場合は、恒久的施設 (PE) があることとされます。
以上の定義から、企業の活動が準備的または補助的活動に該当すれば、その事務所は恒久的施設 (PE) とはならず、従って連邦法人税の対象にはならないわけです。企業の活動が準備的または補助的活動に該当するか否かを判定することは、非常に困難を伴います。実際には、個々の企業の事業目的、事業規模その他諸般の事情を勘案して判定されることになります。いずれにせよ、事務所の活動が本社のための調査、情報の収集、提供等の準備的、補助的な性格のものであれば、日米租税条約の適用により、駐在員事務所は恒久的施設(PE)とは見なされず、課税対象にはならないことになっています。以上から、本件の派遣社員の活動は、米国市場に関する情報収集であり、準備的、補助的な性格であるため、日本企業は連邦法人税の対象とはならないと言えます。
具体的には、連邦法人税申告書フォーム1120Fに、会社名、住所、雇用者番号だけを記入し、アメリカでの活動が日米租税条約に言及された恒久的施設(PE)に該当しないため、連邦法人税の対象とはならない旨記述したステートメントを添付して、IRS (内国歳入庁)へ提出します。
この際、注意しなければならないのは、租税条約が適用されるのは連邦法人税についてだけであり、駐在員事務所は州法人税(市によっては市法人税)の対象となることです。また、給与関係税 (FICA税、失業保険税)も租税条約の対象外です。駐在員事務所の活動は租税条約によって非課税であり、従って税務調査の対象にもならないと一般的に考えられがちです。ところが、課税強化政策下の昨今ではこのような考えは改められ、IRS の税務調査によって駐在員事務所の活動の細部にいたるまで精査され、課税対象の如何を問われることがあります。税務調査の結果、恒久的施設(PE)であり、営業行為を行っていると判断された場合には、駐在員事務所に帰属すると見なされる課税所得に通常の連邦法人税率('04年現在最高35%)を乗じて計算した税金が課されます。営業行為と認定されるような駐在員事務所の業務とは、例えば販売促進活動、補償役務の提供、資金の運用・調達、本社製品の維持、アフターケアー・サ−ビス、修理を行っている場合を指します。