会計相談室
2010年2月15日 14:00:00
経済的な大不況下のアメリカ子会社の決算のポイント
Q. 昨今の世界的な経済不況が深刻ですが、今期末の決算や監査でのポイントは何ですか?
A.昨今の経済不況がもたらしている今期決算での会計および監査上のポイントは以下の通りです。
<時価の下落による影響>
投資資産を企業が保有している場合、投資資産の時価の目減りが起きている可能性があります。これらに関するポイントは次の5点です。
① 公正価値基準:投資価値の含み損益が今日の会計上の損益に大きな影響を与えることから、次のような公正価値に関する米国会計基準が重要です。(本誌#50参照)ASC820(FAS157) 「Fair Value Measurements and Disclosures」 (09年8月26日適用), ASC825 & ASC270-10-50(FAS107-1&APB28-1)「 Interim Disclosures about Fair Value of Financial Instruments」では、レベル1から3に分けてそれぞれの方法で公正価値を測定することになります。
② 退職年金資産の公正価値の開示:退職年金資産の公正価値は貸借対照表に載っていないことやレベル3の資産の測定が困難なために前述の公正価値基準から除かれていましたが、改定されて公正価値をより詳細に開示することになりました(ASC715-20-50/ESP FAS132(R)-1(08年12月30日発行09年12月15日後のF/Sから適用)。
③ 投資の一時的ではない価値の下落による減損の認識と開示が必要になります(ASC320-10-35-17/FAS115-2&FAS124-2)。
④ 持分適用会社の会計処理:FAS141(R)の発行により、連結会計基準は全面的に時価会計に移行しました。それに矛盾しないような規定に持分方も改定されました(ASC323/EITF08-6) (08年11月24日適用)。
⑤ 金融資産の譲渡:変動持分を含む金融資産の譲渡の開示もリスクや制限についてより詳細になります(ASC860)。
<企業の継続性やリストラ、固定資産の余剰に関する事項>
不景気が続くとリストラを行ったり、工場の稼動率の低下で工場のラインが余ったり、最終的には事業部の廃止や借入金の債務不履行もあり得ます。これらに関するポイントは次の7点です。
① 企業活動の継続性(going concern)に関する懸念事項:企業活動の継続性とは、企業が近い将来立ちいかなくなる可能性が極めて高いことをいいます。事実、大手会計事務所のデロイトが09年3月にゼネラルモーターズ(GM)に対して継続性の意見表明を出した後、GMは倒産しました。09年3月までの監査報告書に企業活動の継続性に関する記載がなされたものは23%ありました。昨年の前年同期から比べると19%の上昇です。継続的な損失の計上、運転資本がマイナス、営業キャッシュフローがマイナス、財務比率の悪化、借入契約の契約不履行などがあった場合には、企業活動の継続性について特に気を付ける必要があります。また、決算日後に起きた事象である後発事象についても必ずフォローアップしておく必要があります(ASC205)。
② リストラコストの会計処理:リストラコストには以下のようなものがあります。キャピタルリースの契約解除(ASC840)、年金の解除(ASC715)、固定資産の処理(held & used) (ASC360/FAS144)、解雇費用(FAS146/ASC420)
③ 固定資産の減損:赤字が続くと将来的に固定資産の投下資本が回収できなくなる可能性が出てきます(ASC360)。
④ 売却予定の固定資産の処理:会計基準で規定された6つの条件がすべて揃うと売却予定の固定資産に科目を振り替え、低価法での処理となります。
⑤ 廃棄予定の固定資産:人員が減ったために余分な固定資産の廃棄を行うことが考えられます。廃棄予定の固定資産は、廃棄処分までは前述③と同じ処理を行い、減損テストを行うことになります。使用しなくなった場合には、廃棄処分とみなすか、一時遊休資産の処理に分かれます(ASC360)。廃棄処分扱いの場合には、残存価値まで落とすことになります。一時遊休資産が重要ならば、別表示になります。
⑥ 非継続事業(Discontinued operation):不採算部門の取り止めを行うことが考えられます。
⑦ 貸付債権の評価:クレジットリスクをより詳細に開示する必要があります。<不正取引の増加>失業率が高い状態が続くと社会的に不安定な状況に陥りやすく、企業犯罪または不正が増加する可能性があります。これに関する事例とポイントがあります。Madoff Scandal(Ponzi schemes):バーナード・メードフ・ナスダック元会長が650億ドルをねずみ講で詐欺事件を起こしました。企業不正を予防したり、早期発見をするシステム(内部統制)を重要なポイントに重点的に確立しておく必要があります。
齊藤幸喜