税金相談室
2007年6月20日 22:00:00
米国の永住権と市民権(1)
質問: 私は永住権保持者で、配偶者は米国籍です。永住権は市民権と比べて不利であると聞きましたが、どういうことか教えてください? 答え: 米国と日本の贈与税・遺産税・相続税に関して、当事者の国籍によって税金の計算方法が異なります。今回は米国の贈与税・遺産税について検討し、次回は日本の贈与税・相続税について説明します。 米国では、配偶者が永住権か市民権かによって、贈与税・遺産税の計算上の取り扱いが大きく異なります。夫婦間の贈与・相続を全面的に非課税とする米国税法の婚姻控除の規定は、受贈者・相続人が米国籍配偶者である場合に適用されますが、永住権配偶者である場合には適用されず、課税されます。贈与税・遺産税の寛大な非課税枠(後述)が設定されているため、非課税枠を超える高額財産がない限り税金は発生せず、市民権と比べて永住権の方が必ず不利になるとは言えません。 永住権と市民権の取扱相違点 所得税に関しては、永住権と市民権の取り扱いは同じです。所得の課税基準や控除の範囲、適用税率などは、永住権と市民権との間で同等に扱われるためです。永住権と市民権で取り扱いが異なるのは、贈与税・相続税が関わる場合です。異なる取り扱いとは税金の計算方法についてであり、永住権や外国籍が関わる相続は、財産を政府に差押さえられたり没収されたりするため不利であるということはありません。無遺言で執行人の指名のない外国人の遺産相続の場合、州裁判所での相続検認(プロベート)手続に時間がかかって相続が円滑に運ばないことから、こうした誤解が生じたことと思われます。 婚姻控除 贈与税・遺産税の婚姻控除(Marital Deductionの訳語、配偶者控除とも訳される)の規定は、贈与や相続によって財産の所有権が配偶者の一方から他方へ移転する際、課税は一切生じないと定めています。法的婚姻関係にある夫婦間の財産移転が、生前、死亡時を問わず非課税となる婚姻控除は、財産を受ける配偶者が永住権(外国籍)の場合には適用されず、米国籍である場合にだけ適用となります。 財産の金額が非課税枠(後述)の範囲内であれば、米国籍がなくても税金は生じないため、婚姻控除が適用されない永住権配偶者が必ず損をするわけではありません。 贈与税 米国では、受贈者が納税義務を負う日本とは逆に、財産を与えた贈与者が贈与税の納税義務者となります。永住権配偶者への贈与は婚姻控除が使えないため、連邦贈与税(18%~45%)が課税されます。その際、年間12万ドル(2007年の金額、2008年12万8000ドル、2009年13万3000ドル、2010年以降はインフレ調整により増額)の非課税額が認められます。この非課税額は、配偶者が居住外国人の場合も非居住外国人の場合も適用となります。12万ドルを超える贈与は、生涯非課税贈与枠を利用して、さらに100万ドルまでについて課税を免れることできます。年間非課税額と生涯非課税贈与枠を上手に利用することにより節税を達成することができます。 配偶者以外の者への贈与には、1万3000ドル(2009年)の年間非課税額と100万ドルの生涯非課税贈与枠が認められます。 遺産税 遺産税は故人が遺した遺産に課される税金です。連邦遺産税の計算は、相続人ごとに算出する日本の相続税と異なり、相続財産の総体で行います。生存配偶者が永住権(外国籍)の場合、その配偶者を含む相続人への遺産分割は遺産税の総額に影響を与えません。一方、生存配偶者が米国籍の場合は、その配偶者への分割遺産に対して婚姻控除の作用により遺産税が発生しないため、遺産分割が遺産税の総額に影響を与えます。配偶者の取得財産額がいくらになるかによって遺産税の総額が変わってきます。 遺産を相続する生存配偶者が永住権(外国籍)の場合は、婚姻控除が適用されないため連邦遺産税の課税が生じます。故人が遺した遺産が、非課税枠(2007年および2008年200万ドル、2009年350万ドル)を超えない場合、遺産税がかからず、超えた場合は超過額に連邦遺産税(18%~45%)が計算されます。 したがって、高額財産の場合は、婚姻控除による夫婦間の無税贈与および無税相続の適用を受け、永住権よりも市民権の方が有利となります。非課税枠内の財産の場合は、永住権であっても不利にはなりません。