会計相談室
2009年12月16日 14:00:00
監査基準の国際的な統一化
Q. 現在、会計基準のみならず、監査基準も国際的な統一化が進行していると聞いています。どのような状況でしょうか?
A. 監査の世界でも世界共通の基準の準備が着々と整いつつあります。米国公認会計士協会(AICPA) の監査基準委員会 (ASB) と国際監査および証明基準委員会 (IAASB) は、お互いに基準の明確化作業 (Clarity Project) を行うことによって、 米国監査基準と国際監査基準の調整、連携作業を進めています。この作業は、特に小規模の企業や小規模の事務所を対象として進められています。監査基準委員会のClarity Projectでは、国際監査基準(ISA)と矛盾しないような改善を行いすべての基準を読みやすく、理解しやすく、しかも導入しやすいように書き直す作業が行われています。現在進行中の改定作業は以下の通りです。
1.独立監査人の目的と一般に公正妥当と認められた監査基準に準拠した監査:監査人の目的は、①財務諸表が不正や単純な間違いによる重大な虚偽表示を含んでおらず、適切な会計基準に準拠して作成されていることにつき、合理的な心証を得ること②監査人が財務諸表にレポートをすることです。米国監査基準と国際監査基準との違いは、前者が “適正(fair presentation)”と表現しているところを国際監査基準では“真実かつ適正(true and fair view)”と称している点です。米国監査基準では監査人に必要とされる専門家としての注意義務要件は“倫理的な観点”を要求していますが、国際監査基準では、この言葉は使用されていません。
2.財務諸表のその他の情報に関する監査:監査済の財務諸表以外にその他の情報が添付される場合、米国監査基準では、監査報告書が公表される前に入手する必要がありますが、国際基準では、監査の終了前に入手することが必要です。
3.初年度監査における期首残高について:監査人が変更になった場合、新規の監査人は、初年度監査を行うことになります。その際に問題となるのが、期首残高の監査です。新規の監査人は、前期の財務諸表を読んだり、前任の監査人の監査調書を査閲するなど自ら調査をして、心証を得なければなりません。米国監査基準では、前任の監査人の調書の査閲だけでは、十分な証拠とはならないとしています。米国監査基準では、会社は、前任の監査人に新任の監査人に監査調書を査閲させることを承認しなければなりませんが、国際監査基準にそのような規定はありません。
4.財務諸表監査に関係する違法行為や法令違反について:米国監査基準と国際監査基準は共に財務諸表に重大な影響を与える違法行為や法令違反に関する手続きを規定しており、両者に大きな差異はありません。
5.財務諸表監査の不正について:国際監査基準と米国監査基準の違いは、米国監査基準と比べて国際監査基準の不正の範囲の方が広いことや、米国監査基準の方が、監査手続きにより詳細な規定を設けているなど多数の相違があります。これは、米国での訴訟リスクがより高いことが背景にあります。
6.監査リスクの評価について:監査証拠、重要性、虚偽表示の評価、監査計画、企業環境と重大な虚偽表示のリスクの理解、リスク評価と監査証拠の評価について米国監査基準では分散されて規定されていますが、国際監査基準とほぼ同じ規定に組み替えられます。
7.監査サンプリング:米国監査基準では、haphazard(無計画)サンプリングについて記載していますが、国際監査基準ではありません。国際監査基準で記載されている異常項目に関するサンプル方法は米国監査基準では削除されています。
8.監査調書:監査調書は、監査人の行った作業を記載し監査意見表明をするための結論に至るまでを十分に記載しなければなりません。米国監査基準では監査調書60日完成ルールと5年間の保管義務を明示しているほかは、米国基準と国際監査基準はほぼ同じです。
9.監査人の会社統治者への報告:監査人は、計画段階と監査の終了段階で、それぞれ会社の統治者に内部統制上の不備事項を報告する必要があります。これにおいて、米国監査基準と国際監査基準に大きな差異はありません。
齊藤幸喜