税金相談室
2007年6月25日 22:00:00
永住権保持者と市民権保持者の税金(2)

質問: 私は永住権保持者で、配偶者は米国籍です。永住権保持者は市民権保持者と比べて税金面で不利だと聞きましたが、詳しく教えてください。 答え: 米国と日本の贈与税、相続税、遺産税の取り扱いが、当事者の国籍によって異なります。前回は、米国税法の配偶者控除が適用となる市民権保持者の方が、永住権保持者よりも有利であることを説明しました。今回は、日本から贈与や相続を受け取る際、永住権保持者と市民権保持者とではどちらが有利か解説します。日本の贈与税と相続税の課税の仕組みは共通点が多いため、次の「国境を越える贈与」の記述を相続に置き換えることができます。すなわち、贈与、贈与者、受贈者を、それぞれ相続、被相続人、相続人に置き換えると、相続税の説明になります。 国境を越える贈与 日米間の国境を越える贈与では、財産の「所在地」と財産の授受に関わった当事者の「居住地や国籍」に応じて、日本と米国の両国、あるいはいずれか一方の国の贈与税が課税されます。納税義務者は、米国では贈与者(親)であるのに対して、日本では受贈者(子)であり、日米で逆になっています。 日本の贈与税が生じない財産の所在地はどこかいうと、それは日本国外(米国)です。日本にある財産が関わった場合は必ず日本の贈与税が課税されますが、米国にある財産が関わった場合は、贈与税が発生しないことがあります。国外財産の贈与が課税対象か非課税かを決めるのが、当事者の居住地や国籍です。 当事者の居住地や国籍と日本の贈与税の課税・非課税の関係をまとめると、次の通りになります。 ① 贈与者と受贈者が日本の居住者の場合、課税対象。 ② 贈与者が日本居住者、受贈者が米国居住の永住権保持者(日本人)の場合、課税対象。 ③ 贈与者が日本居住者または米国居住者、受贈者が米国籍保持者の場合、非課税。 ④ 贈与者と受贈者の両者が5年以上米国居住の永住権保持者の場合、非課税。 ⑤ 贈与者と受贈者の片方または両者が5年未満米国居住の永住権保持者の場合、課税対象。 日本の贈与税を課税されずに日本人から贈与を受けるには、受贈者が米国籍保持者であるか、贈与者と受贈者の両者が5年以上米国居住の永住権保持者でなければならないことが分かります。なお、日本の税法上非課税となった場合でも、財産の所在地(米国)の税制上課税の対象となるかどうかを検討しなければならないことは言うまでもありません。 無税贈与の例 日本人(父)が米国内に保有する財産を、米国に居住する子(娘)とその家族に贈与します。子(娘)は永住権保持者、その夫は米国籍保持者、二人の間の子(孫)は米国生まれで出生時に日本国籍を留保し、成人後日本国籍を放棄していないため日米の二重国籍です。日本と米国の贈与税の課税関係は以下の通りです。 日本:永住権保持者は、日本国籍を維持して海外に居住する日本人です。永住権保持者である娘への贈与は、日本人から日本人への国外財産の移転であり、課税対象となります。財産の所在地に関わりなく年間の基礎控除額110万円を超える額について日本の贈与税が課されます。 米国籍保持者の夫への贈与は、日本国外(米国)財産が関わっているため日本の贈与税の対象外です。 二重国籍者は日本国籍を放棄しない限り、日本の税法上日本人として扱われます。二重国籍の孫への贈与は、日本人から日本人への財産移転であり、日本の贈与税の対象となります。孫が日本国籍を放棄して米国籍だけの場合は、日本の贈与税の対象外です。 米国:米国の贈与税の納税義務者である父(贈与者)が非居住外国人であるため、財産の種類が「有形資産」(不動産、現金、自動車、宝石など)であれば米国の贈与税が課されますが、「無形資産」(株式、債券、有価証券、手形など)であれば非課税です。 無税相続の例 2007年に日本で死亡した父には一人の娘がいましたが、その娘はアメリカ人と結婚して子を一人遺して10年前に亡くなりました。米国籍で米国在住の遺児(孫)は、娘の代襲相続人として亡くなった父(祖父)の財産を相続することになります。 日本:相続財産は、日本にある不動産と米国にある銀行預金です。日本の税法上、相続人が外国籍であるため、日本国内財産(不動産)は相続税が課されますが、国外財産(銀行預金)は非課税です。 米国:米国の税法上も非居住外国人(父)が遺した銀行預金は米国遺産税の対象外です。 したがって、永住権と市民権を比べると、日本から贈与や相続を受けても贈与税や相続税の課税対象とならない市民権保持者の方が永住権保持者よりも有利となります。