税金相談室
2000年4月20日 19:00:00
日本の居住者が米国内不動産を売却する際の課税
日本の居住者が米国内不動産を売却する際の課税
Q 日本に住んでいる父がアメリカに所有しているコンドミニアムを売ることになりました。譲渡益に対して、アメリカで支払う税金が発生すると思いますが、どのように納付するのでしょうか。
A このケースにおける税金納付は、2段階に分けて考えることができます。
●住宅売却の際
アメリカの税法では、日本に住んでいる人は非居住外国人となります。非居住外国人がアメリカ国内に保有している不動産を売却する際は、売上の10%を源泉徴収で納めます。
どのように源泉徴収されるかというと、住宅の代金を引き渡す際、買い手は10%をIRSに納付し、残り90%を売り手に支払うのです。つまり、税金の支払人は売り手ですが、実際の手続きをするのは買い手(実際には買い手の弁護士)というシステムになっています。
ただし、不動産の売却価格が30万ドル以下であり、その物件が、今後買い手の日常の住居となる場合には、源泉徴収の対象にはなりません。価格が30万ドルを超える場合、あるいは30万ドル以下でも買い手が住居として使う予定がない場合は、源泉徴収税が発生します。
また、右記の30万ドル、および居住の条件とは関係なく、源泉徴収を回避できるケースもあります。それは、売却価格が物件取得時の価格よりも低いため、譲渡損失となる場合です。損失にはならなくても、確定申告の際に計算する不動産譲渡所得(後述)がさほど大きくなく、最終課税額が売上の10%より低くなるのであれば、やはりこの源泉徴収は回避できます。
源泉徴収を回避するには、売り手は申請書フォーム「8288―B」をIRSに提出し、特別許可を受ける必要があります。申請書には、物件取得時の価格や諸費用を物件売却価格から差し引くと損失が発生すること(あるいは譲渡益が十分低いこと)を示す詳細な計算書を付け、さらに各金額が正しいことを証明するため、売り手と買い手が署名した売買契約書や領収書を添付します。
不動産の売却契約締結日までにIRSから特別許可書が届いていれば、売上価格の全額が買い手から売り手に支払われます。認可が下りていない場合は、買い手は90%だけを売り手に支払い、IRSから証明書が届くまでの間、10%分はエスクロー(預託管理)の形で銀行に預けておきます。IRSから証明書が届いた時点で、その金額と利息が売り手に支払われます。90日経ってもIRSの認可が下りなければ、買い手はエスクロー口座に入っている金額を、源泉徴収税としてIRSへ納付しなければなりません。
●翌年の確定申告の際
源泉徴収税が差し引かれても差し引かれなくても、非居住外国人は、不動産を売却した翌年の4月15日までに、不動産譲渡損益を確定申告する必要があります。申告書にはフォーム「1040NR」を使い、計算の詳細は「スケジュールD」に記入して添付します。
不動産譲渡損益とは、売却価格から、その不動産の取得時の金額(取得費)、改築費、売るためにかかった費用(譲渡費用)を差し引いた金額です。
これが黒字になった場合は、連邦税が15%または20%の税率でかかります。すでに源泉徴収で売上の10%を納付した場合は、それと合わせて精算します。州税は、かかる州とかからない州があります。損益の計算結果が赤字になった場合は、源泉徴収で支払った分は還付されます。源泉徴収分の精算には、フォーム「8288―A」を添付提出します。
不動産を売る前、人に貸していてレント収入があった場合は、賃貸所得の計算は通常どおり行いますが、不動産譲渡損益の計算の際に1点調整が必要です。賃貸所得計算の際に控除してきた減価償却部分を、不動産取得費から差し引かなければならないのです。つまり、その分譲渡益が増え、税金も高くなるわけです。
過去に賃貸で損失が出ていれば、それを不動産の譲渡所得から控除することができます。
最後に、日本での課税について少し触れておきましょう。日本では、アメリカで不動産譲渡損益が生じた場合は、確定申告で報告する義務があります。
不動産売却で損失が発生している場合は、他の所得との損益通算のうえで、税金還付を受けられます。所得が出ている場合は課税の対象となりますが、アメリカですでに支払った税額は外国税額控除として申告できるので、二重課税は一部または全部、回避することができます。
KPMG特別顧問、米国公認会計士 大島襄