税金相談室
2007年11月20日 23:00:00
日本からの不動産直接投資(法人)
質問:日本の法人として、直接アメリカの不動産を購入して賃貸収入を得ることになりました。日本の法人が不動産を所有する場合、税金はどのようになりますか。 答え:日本法人が日本から直接アメリカの不動産を所有・運用する場合、アメリカと日本の両国での法人税の課税を検討する必要があります。前回、日本人の直接不動産投資の税務について検討しましたが、今回は個人を法人に置き換えて考えると理解しやすいでしょう。 ●米国での課税 外国法人による米国不動産の運用(賃貸)に関する税務も、非居住外国人の税金の場合と同様、「源泉徴収課税方式」または「ネット・レント課税方式」のいずれかの方式の選択し連邦税が課税され、さらに「ネット・レント課税方式」による州税、そして場合によっては市税が課税されます。 ▲連邦税 源泉徴収課税方式は、ネット・レント課税方式を選択しない場合に適用されます。レントを受け取る際の源泉税で課税関係が完了するため、他に報告すべき所得がないのであれば確定申告の必要がありません。 テナントまたはその代理人が家賃の30%を差し引き、その金額をIRS(内国歳入庁)へ納付します。残りの70%が実際に受け取る金額です。必要経費の控除は一切認められず、たとえ経費の方が多くて赤字になることが分かっていても、たえず家賃収入の30%を税金として支払わなければなりません。このため、必要経費が控除できるネット・レント課税方式の方が税金額は低くなり、源泉徴収課税方式よりも常に有利と言えます。源泉徴収を行ったテナントまたはその代理人から、暦年終了後の年明けに1年間のレント収入、源泉徴収税額を記載したフォーム1042Sが送られてきます。これで連邦税の課税は完了します。 ネット・レント課税方式は、確定申告書Form 1120Fに必要事項を記入して毎年IRS (内国歳入庁)へ提出します。この方式を選択する年度の申告書上、不動産収入が米国内の商活動と実質的に関連があるというIRC(内国歳入法)第871(d)条に基づく選択を行います。家賃収入から、固定資産税、支払利子、修繕費、管理費、維持費、保険料、不動産周旋手数料、減価償却費などのあらゆる必要経費を控除して、ネット・レント純利益または純損失(不動産賃貸所得または損失)を算出し、35%の連邦法人税(10万ドルまでは15%、25%)が課されます。必要経費控除後の金額が純損失になれば税金は発生しません。同一年度内の他の所得との損益通算が認められ、残った損金は他の年度に繰り延べることが認められます。繰延年数は繰り戻し2年、繰り越し20年です。 ▲州税 税金は連邦政府だけでなく、州、場合によっては市に対して申告して納付する義務があります。税率は州によって異なります。例えば、カリフォルニア州8.84%、ニューヨーク州7.5%。州法人税は、たえず「ネット・レント課税方式」に基づいて計算します。連邦税を「源泉徴収課税方式」にすると二重手間になるため、最初から連邦税を「ネット・レント課税方式」で計算しておくことが勧められます。 ニューヨーク州での不動産活動の場合は、もう一つ問題があります。それは、税金計算の出発点が連邦課税所得(米国)ではなく、法人の純利益(日本)であることです。すなわち、日本の損益計算書の税引前純利益を米ドルに替えて報告しなければなりません。さらにその金額に、いわゆる3要素の「按分配賦率」(Three Factor Formula)を適用してニューヨークの課税所得を計算し、7.5%の税率を掛け合わせてニューヨーク州法人税とします。この場合の3要素とは総売上、給与、固定資産のことであり、それぞれの要素についてニューヨークの金額が全世界の金額に占める割合を算出し、その平均値を「按分配賦率」とします。税金の計算にアメリカでの活動とは関係のない日本の財務諸表とその明細を用意し、また算出される税金額は予測できないほどかけ離れた金額になることを覚悟する必要があります。物件がニューヨーク市内にある場合は、ニューヨーク市法人税の申告・納税も必要です。計算方法はニューヨーク州税と同じです。ニューヨーク州内の不動産に投資をする場合、州税上および市税上の税金上の問題に考慮して、なるべく日本法人が直接保有することを避け、現地法人を設立して間接的に保有することが勧められます。 ●日本での課税 日本の法人は全世界所得を報告して税金を支払う義務があります。アメリカ不動産への直接投資をしている場合、レント収入からすべての必要経費を差し引いた後のネット・レント純利益(または純損失)を他のすべての所得に合算した課税所得が税率22%または30%の法人税の対象となります。地方税もかかります。 支払利子控除、減価償却、ドル・円換算レートの制限のため、日本での課税所得はアメリカ側で報告したネット・レント純利益(純損失)を、単純に円換算した金額とは異なります。 ・ 支払利子控除――米国では不動産取得に係る支払利子が全額控除できます。日本では建物部分に対応する支払利子は控除が認められますが、赤字の要因となる土地部分の対応額は控除が認められません。 ・ 減価償却――減価償却の計算のための耐用年数が、同一物件であるにもかかわらず日米で異なります。 ・ ドル・円換算レート――家賃収入や当期に発生した経費は当該年度の平均為替レートでドルから円へ 換算します。一方、減価償却の計算のための不動産取得費は、購入日の換算レートを使います。 以上の計算上の制限によって、ネット・レントの金額が日本とアメリカとで大きく異なるという結果になります。 日本とアメリカの両国で税金を納めることになった場合、アメリカで支払った税金について、外国税額控除の形で日本の税金から差し引くことにより、二重課税の回避が達成できます。