会計相談室
2008年11月17日 14:00:00
新連結会計基準 2
Q. 来年度より新連結会計基準が適用になると聞きましたがどのような内容でしょうか?
A. 米国会計基準審議会(FASB)は2007年12月に連結会計について基準141(R)号を公表しました。これは2001年に公表された141号の改定バージョンです。2008年12月15日以降に始まる会計年度の財務諸表から適用になります。141(R)号では、買収企業の全ての資産負債、および少数株主持分につき公正価値での評価を求めています。
141(R)号と141号の大きな相違点は以下の通りです。
①買収費用(acquisition cost)の処理方法;投資銀行の費用、弁護士費用や会計士費用など買収費用は現行では買収コストの一部としてのれんの一部に組み込まれ繰り延べられますが、新基準では、不動産の取得費用以外は資産の定義を満たさないものとして全額費用処理されます。
②廉価購入(Bargain purchase)の処理方法;現行では負ののれんとして扱われ取得資産の価額を減額処理します。非常にまれなケースですが、減額しきれない場合には異常利益計上をします。新基準では、資産と負債は全て時価で計上されるため、廉価購入の場合の差額は繰延税金を控除した金額を利益計上します。
③条件付買収費用債務(contingent consideration)の処理;現行では、ほとんどの場合、買収時には条件付買収費用債務は全く無視されます。新基準では予測値で偶発債務または資産を計上することになります。その後の予想値の変化は確定するまでその変化した期の損益に反映されます。もしも、条件付買収費用債務が持分の変化を含む場合には、資本剰余金で調整されます。
④開発中の試験研究費(in-process R&D)の処理;現行では142号に従い一旦資産計上した上で、全額費用計上処理をしています。新基準では、開発中の試験研究費は資産計上され、試験研究段階が完了するか当該プロジェクトが中止されるまで無形固定資産として計上されます。ただし、減損テストの対象にはなります。
⑤その他の偶発事象(other contingencies);現行では基準5号によりその事象が確実に発生する事象で合理的に見積もれる場合に限り偶発債務が計上されています。この条件を満たさない場合には、財務諸表に注記されるか無視されます。新基準では契約上の偶発資産負債は全て予想される公正価値で資産負債を計上しなければなりません。それ以外の偶発事象は、会計定義上の資産や負債とみなされるものでその事象の起こる確率が50%超の場合、予想される公正価値で計上する必要があります。その後は、資産については価値が下がった場合に負債は金額が増加した場合に再評価をする必要があります。
⑥段階法(step method)の処理;現行では買収日に至るまで段階法で取得した投資勘定は取得原価あるいは持分法で計上され、買収日にはそのまま持ち越されます。新基準では、買収日に一旦公正価値に全て置き換えられます。その際の利益や損失は当期利益に計上されます。
⑦のれんの測定方法(goodwill measurement);現行では買収先の資産負債につき時価評価を行い、純資産の持分割合を買収価額が超える残額をのれんとしています。したがって、少数株主持分にはのれんが配分されません。現行の会計基準では、のれんの価値がきちんと財務諸表に反映されていません。新基準でも残額を用いることには変わりありませんが、少数持分やのれんも公正価値を用いることになります。
⑧開示情報(supplemental information);現行では買収の利益や買収価額の配分方法については限定的な開示しか要求されておりません。新基準では、まずのれんの正当性について経済的要因を説明する必要があります。たとえば、計上されていない無形固定資産や合併によるシナジー効果などです。また、会計原則に従って追加的な情報の全てを開示する必要があります。
⑨測定期間(measurement period);現行では、買収日以降から初めての決算期までに生じた公正価値の修正は当期利益で調整するのか過年度に遡って資本を修正するのか不明確でした。新基準では、最長で1年以内に限り、公正価値の修正はあたかも買収日に生じたものとして修正することを認めています。
非営利企業の連結会計については未だ検討中ですが、2008年8月現在によると買収と合併は異なる取引とみなし、それぞれ違う会計処理で行くようです。買収については買収法で合併については繰越法(Carryover method)を適用するようです。また、偶発債務の処理については2008年6月現在によると現在の基準5では十分な開示ができないとして開示要件を広げる方向のようです。
米国公認会計士
大島斉藤会計事務所
齊藤幸喜