税金相談室
2002年9月5日 22:00:00
従業員対独立請負人

Q:会社に雇われて働く場合、従業員になるのと、従業員にはならずに独立請負人になるのでは、税金上の取り扱いはどうのように違いますか。 A:被雇用者の身分が「従業員」(employee)であるか、「独立請負人」(independent contractor)であるかによって、源泉徴収税および給与関係税の取り扱いが異なります。会社側および被雇用者側は、「従業員」あるいは「独立請負人」の身分を明確に把握する必要があります。 被雇用者が従業員である場合に支給される給料は、源泉徴収税の対象となります。源泉徴収税として、ソーシャル・セキュリティー税(6・4%)とメディケア税(1・45%)、連邦所得税(10%~38・6%)、州・市所得税(0・1%~12%)がグロス支給額から差し引かれた後の手取給与を従業員は受け取ります。 会社は給与から差し引いた源泉徴収税に、会社負担分のソーシャル・セキュリティ税(6・2%)とメディケア税(1・45%)を加えて、IRSおよび州の税務当局に給与支給する度に納付していきます。 会社は従業員のための失業保険(Unemployment Insurance)、労災保険(Workers Compensation)、および廃疾保険(Disability Insurance)の掛け金を支払う義務があります。これらの保険料および会社負担分のソーシャル・セキュリティ税とメディケア税は、一般的に給与関係税(Payroll Tax)と呼ばれ、従業員に支給する給与とともに、会社の必要経費となります。 会社は、従業員に支給した給与額および源泉徴収税額を集計した給与関係税申告書(Payroll Tax Return)を四半期ごとにIRSおよび州の税務当局へ提出する義務があります。年間終了後、会社は各従業員に対して源泉徴収票フォームWー2を発行し、フォームWー2の原本をソーシャル・セキュリティー・アドミニストレーションへ提出します。源泉徴収票フォームWー2には、1月1日から12月31日までの給与支給額、ソーシャル・セキュリティ税、メディケア税、連邦所得税、州・市所得税などの源泉徴収税の金額が記載されています。各納税者は、個人所得税申告書フォーム1040(および州の申告書)を提出する際、源泉徴収票フォームWー2を添付しなければなりません。 一方、独立請負人、いわゆる契約社員として会社のために働く場合、その報酬は源泉徴収税を差し引かれずに支給されます。会社は、ソーシャル・セキュリティー税、メディケア税、失業保険、労災保険、廃疾保険の掛け金などを負担する必要もありません。年に一度、フォーム1099様式の非従業員報酬の欄に報酬金額を記載して発行し、原本をIRSへ提出、写しを契約社員に渡します。契約社員は個人所得税申告の際、この報酬金額を自営業収入として扱い、その金額から必要経費を控除して事業所得を計算します。その金額を基に所得税、セルフ・エンプロイメント税(ソーシャル・セキュリティ税およびメディケア税)を算出します。 従業員になるか独立請負人になるかは、自由に選択できるのではなく、会社と被雇用者の間の関係の度合いによって判断されます。会社にとっては源泉徴収および給与関係税の負担のない独立請負人としての取扱いのほうが都合がいいため、可能な限り被雇用者を独立請負人として扱う傾向があります。このため、従業員・独立請負人のIRS税務調査が比較的頻繁に行われ、IRSの判断基準が整備されています。判断基準として、(1)行動管理、(2)金銭管理、および(3)関与度があり、自由裁量の度合いが少ない場合に従業員として、多い場合に独立請負人として判断されます。 (1)行動管理 従業員であるかないかは以下を参考に決定されます。 ・業務時間および場所の指定 ・道具または機材の使用の指定 ・業務遂行のための雇用または補佐人員選択権限の有無 ・資材購入先およびサービス提供者の指定 ・一定業務遂行のための人物の指定 ・業務遂行の順序の指定 会社が業務遂行のための指示を下し、行動に関する指定があり、被雇用者を管理下に置いていれば、従業員と判断されます。また、特定の作業方法についての研修を施す場合は、従業員となります。独立請負人は通常独自の手順と方法で仕事をするとみなされています。 (2)金銭管理 独立請負人は、業務遂行上の必要経費の支出を自由裁量で行えますが、従業員はできません。また、独立請負人は、業務遂行のための機材、道具、施設の投資所有があり、業務提供を他の関与先にも行うことができます。 (3)関与度 ・両者の関係に関する成文契約書の有無 ・雇用保険、退職基金、休暇・病欠支給など福利厚生制度の有無 ・期間限定の有無 これらの関与度に関する基準を参考にして、従業員か独立請負人かが決定されます。 米国公認会計士 大島 襄会計士事務所所長 大島襄