税金相談室
2007年8月20日 22:00:00
国境を越える相続

質問: 米国在住の日本人で、永住権(グリーンカード)保持者です。日本で父親が亡くなり、不動産(日本)、銀行預金(日本、米国)などの遺産を、日本の母と私とで相続することになりました。日本で相続税を支払うことはわかりますが、米国でも税金がかかるのでしょうか? 答え: 米国に遺されたのは、父親(被相続人)名義の銀行預金口座だけであり、他のすべての相続財産は日本にある場合、米国にいる相続人の居住者・非居住者や国籍の別に関係なく、日本の相続税だけが課され、米国では連邦遺産税も所得税も生じません。税引後の相続財産を日本から送金の形で米国の銀行口座に入金したとしても、その送金には税金は一切かかりません。 連邦遺産税 連邦遺産税法上、父親(被相続人)の居住者・非居住者の別が課税範囲を決定します。この場合の居住者・非居住者の判断は、米国滞在日数の客観的基準による所得税の定義とは異なり、永住権保持者は居住外国人、永住権以外の日本人は非居住外国人となります。また、生存配偶者や子(相続人)の居住者・非居住者や国籍の別は、課税範囲の決定に無関係です。それは相続人が納税義務者となる日本の相続税と異なり、連邦遺産税では父親(被相続人、実際にはその執行代理人)が納税義務者となるためです。 父親が連邦遺産税法上の居住外国人であれば、日米両国のすべての財産が連邦遺産税の課税対象となります。父親は非居住外国人であるため、課税対象となる遺産は一定の米国国内財産だけに限られます。一定の米国国内財産とは、不動産、その他の有形資産(家具、車、宝石等)、米国法人発行の株式、米国債券などを指します。非居住外国人名義の米国銀行預金、外国株式、外国債券は、連邦遺産税法上非課税です。米国に遺したのは父親名義の銀行預金口座だけであり、他のすべての相続財産は日本にある場合、米国では連邦遺産税も所得税も発生せず、日本の相続税だけが課税されます。 連邦遺産税の計算は、課税財産から基礎控除を差し引いた金額に税率を掛け合わせて行います。基礎控除は一律に認められる非課税枠のことですが、非居住外国人と米国市民・居住外国人とでは金額が異なります。非居住外国人の基礎控除は原則6万ドルです。米国市民・居住外国人の基礎控除は、2007年と2008年200万ドル、2009年350万ドルです。日米遺産税・贈与税条約を適用して、非居住者の課税遺産が全世界遺産に占める割合を市民・居住者の基礎控除額に掛け合わせた金額を控除する方法も認められます。連邦遺産税の税率は18%~45%までの累進税率です。納税・申告期限は被相続人の死亡後9ヵ月です。詳しくは連邦フォーム706-NA(U.S. Estate Tax Return)を参照してください。 相続財産の所在する州によっては、州遺産税が課される場合もあります。日本で受けた相続財産が日本で課税され、その後米国に送金された場合、米国で所得税の課税を受けるということはありません。 日本の相続税 日本では相続人である生存配偶者や子が相続税の納税義務者となります。日本在住の日本人の親が死亡した場合、相続人の国籍が相続税の課税範囲を決定します。相続人が日本国籍を有する場合、日本居住者、海外居住者とも、被相続人(父親)が遺した財産の所在地にかかわりなく、日本と外国のすべての相続財産が課税対象となります。日本の相続税の税率は10%~50%までの累進税率(2009年)であり、申告期限は死亡後10カ月以内です。日本国外にある父親名義の財産に外国の相続税が課税された場合、その財産が日本で課税される相続財産に含められるため二重課税になります。その場合には、外国税額控除の適用により二重課税の一部または全部の回避が達成されます。 相続人が米国市民の場合 相続人が米国国籍保持者であり、日本の父親(非居住外国人)からの相続を受け取る際、連邦遺産税が課税されるのは、遺された財産の種類が、米国内の不動産、その他の有形資産(家具、車、宝石等)、米国株式、米国債券である場合です。父親名義の銀行預金、外国株式、外国債券は、連邦遺産税の対象外であり税金はかかりません。 日本の相続税に関しては、相続人が米国国籍保持者の場合は、被相続人(父親)が遺した財産のうち、日本にある相続財産だけが課税対象となり、外国(米国)にある財産は非課税です。米国内財産が日本の相続税の課税対象となる永住権保持者(日本国籍・居住外国人)と比べて米国国籍保持者は著しく有利となります。