会計相談室
2012年7月25日 13:00:00
会係数値のマジック
鬣(たてがみ)は、譲謙(ゆずけん)に普段から会計について疑問に思っていることを聞いてみた。
「私の会社は、損益計算書を見る限り売上や利益が月々大きくぶれているのだ。不動産業をしているのだから、月々の売上や経費がそんなにぶれることはないはずだと思うんだ」
「その通りですね。それは不動産業に限らず、どのような商売でも、自分の思い描いている通りに損益計算書に数値として現れていない場合は、会計に問題があるか、自分の思い描いていたことに間違いがあるかのどちらかです」
「ということは、経理処理に間違いがあるということか?」
「一概には、そう言いきれません。なぜならば、会計には幾通りもの処理方法が認められているからです」
「とりあえず、貴社の損益計算書を見せてくれませんか?」鬣は持ってきた自分の会社の損益計算書を譲謙に差し出した。
「ふーん、これはキャッシュベースで普段の処理をしている可能性がありますね」
「キャッシュベース?一体何だそれは?」
「キャッシュベースの処理とは、現金、すなわちキャッシュの出入りがあったときに始めて経理処理を行う会計処理のことです。すなわち、キャッシュをお客様から受け取ったら売上、キャッシュを支払ったら経費処理を行います」
「そんなことは当たり前じゃないか?」
「いいえ、この方法では貴社の正確な損益を把握することはできません。例えば、同じ月に2か月分の収入を受け取るとその月は売上が2倍になってしまいます。売上はサービスを提供したとき、すなわち部屋を貸した時点で起きます。これは、お金の入金のタイミングとはちょっとずれることになります」
「それでは、どうしたら正確な損益計算ができるのだ?」
「簡単です。それぞれサービスを提供した日と受けた日に収益と費用を計上すればよいのです。もしも、その時に金額がわからないないならば、金額を推定をしなければなりません」
「なんだ、会計帳簿にそんな推定で金額を記帳してもよいのか?逆に推定で損益は大きくぶれてしまうのではないか?そんなマジックみたいなことをしてもよいのか?」
「鬣さん、これは会計のマジックのように見えるかもしれませんが、正確に月次決算を行うためには、慎重に推定数値を算出し、その推定数値を多用せざるをえません」
「そんな数値が当てにできるのか?やっぱり、支払や入金が確定してから計上したほうがよさそうだわい」
「鬣さん、それでは、決算が遅れてしまい適切な経営状態の把握ができなくなります。経営者の仕事は会社の経営状態を基に経営の意思決定をすることです。それは、経営者の仕事自体ができなくなることを意味してしまいます」
<解説>キャッシュベースの会計に対して発生主義(アクルーアルベース)会計という処理方法があります。譲謙が後半で説明していたのはこの会計処理のことです。経営者に役立つ月次決算を正確に行うには、発生主義会計が必須になります。
齊藤幸喜