税金相談室
2002年8月20日 22:00:00
事業形態と課税
Q:会社を退職して独立しました。新しく始める事業の形態として自営業、パートナーシップ、会社組織を考えていますが、税金上どのように違うのか教えてください。 A: ●組織形態の特徴 事業の組織形態によって税金の取り扱いが異なります。まず、それぞれの形態の特徴を把握する必要があります。 自営業(Proprietership)は、1人の個人が資金(資本)を拠出して設立する個人企業形態です。事業主がすべての資産を所有し、事業の全経営権を有するかわりに、個人的および事業上のすべてのリスク、債務および損失の無限責任を負います。一般に事業開始のための書類作成や登録料の支払いは必要とせず、設立が極めて簡便にできること、事業主がすべての決断を下すことができること、利益を独占できることが長所です。資金の調達が困難であり、人材を集めにくく、事業主がすべてのリスク、債務および損失の無限責任を負う点が短所です。 パートナーシップは、2人以上の者が共有者として、資金、財産、役務、あるいは技術を拠出して利益を目的とした事業を行う個人企業の理論的延長にある組織です。その長所は複数の能力、判断、技能を結合できること、自営業と比べてより多額の資本を得られること、一般法人と比べて組織段階での課税を受けず、個人パートナー段階のみの課税を受けることです。短所は、特にジェネラル・パートナーが、自営業の場合と同様、債務やリスクに対して無限責任を負うことです。出資の限度までの有限責任パートナーがいる組織もあり、それをリミテッド・パートナーシップと呼びます。 株式会社(法人)は、資金提供者(株主)と経営陣(役員・取締役)によって事業運営を行う組織です(所有と経営の分離の原則)。株式会社は株主から分離独立した租税主体として扱われ、株式会社としての所得計算を毎年行い、法人(所得)税を支払います。株主は株式の引受額(出資額)までの責任を負います(株主有限責任原則)。個人事業主および一般パートナーが無限責任を負うのと対照的です。 リミテッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC有限責任会社)は、過去10年あまりの間に各州での設立が認められるようになった最も新しい事業形態です。パートナーシップと法人の特長を兼ね備えた組織です。会社でありながらLLC組織段階での課税を避け、パートナーシップと同様の課税形態を採ることが可能です。すなわち、出資比率に基づいて各出資者に割り当てられた純利益について出資者の段階で課税を受けます。パートナーシップの一般パートナーと異なり、LLC出資者は会社の経営に参加する際、事業リスク、債務および損失に関して有限責任で済ませます。出資者個人の財産によってLLC会社の負債の責任を負う必要がないということです。 ●課税方式 自営業:自営業の事業所得は、スケジュールC様式にその明細を記入し、個人所得税申告書フォーム1040に添付提出します。自営業の事業所得は、通常の個人所得税およびセルフ・エンプロイメント税の対象となります。連邦個人所得税の02年度の税率は10%から38・6%までの6段階の累進税率。州所得税の税率は州によって異なります。市税が課される場合もあります。セルフ・エンプロイメント税の税率は、ソーシャルセキュリティ税15・3%、メディケア税2・9%です。 パートナーシップ:各パートナーに発行されるパートナーシップ持分損益が記載されたスケジュールK―1にある事業損益、受取利子、受取配当、不動産損益、キャピタル・ゲイン(ロス)、税額控除の金額を、個人パートナーはそれぞれ個人所得税申告書フォーム1040および添付スケジュールの所定の個所へ転記して申告します。個人パートナーのパートナーシップ所得は通常の個人所得税及びセルフ・エンプロイメント税の対象となります。 株式会社:株式会社(一般法人)の純利益は法人(所得)税の対象となります。税率は連邦35%、州・市税の税率は州・市によって異なります。個人株主は受取配当が個人所得税の対象となり、役員、従業者が受け取る給与・報酬は個人所得税およびFICA税(ソーシャル・セキュリティ税7・65%、メディケア税1・45%)の対象となります。株式会社が税法の一定要件を満たしてS法人(株式課税法人)としての選択の認定を受けると、法人段階での課税関係は発生せず、株主が法人の持分利益に対して個人所得税を支払います。 リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC有限責任会社):LLC有限責任会社は、税法上パートナーシップと同様の課税形態で課税を受けることが可能です。すなわち、LLC有限責任会社の出資者(構成員)は、出資比率に基づく持分利益について個人所得税およびセルフ・エンプロイメント税の対象となります。 著者略歴:東京都出身。青山学院大学、ニューヨーク大学大学院卒業。MBA(経営学修士)、CPA(米国公認会計士)。著者に「Q&Aアメリカの税金百科」(共著)、「アメリカ税金の基礎知識」など。 米国公認会計士 大島 襄会計士事務所所長 大島襄