税金相談室
2007年10月23日 22:00:00
不動産譲渡
質問: 日本に住む日本人が直接米国で賃貸していた不動産を売ることになりました。不動産譲渡所得にかかる税金について教えてください。 答え: 米国で賃貸していた不動産を売却して譲渡所得を得た場合、日米両国で譲渡所得を報告して確定申告をする必要があります。連邦税は15%の長期キャピタルゲイ税率(ただし減価償却返還分は25%)、州税は通常の所得税率が適用されます。日本の税率は、長期譲渡所得の場合、20%が適用されます。 米国での課税 賃貸収入を得ていた不動産を譲渡する場合、その譲渡所得は、連邦と州の所得税の対象となります。連邦税率は、長期キャピタル・ゲインにかかる5%/15%の2段階の課税が適用されます。ただし、減価償却に起因する売却益は25%の税率が適用されます。減価償却に起因する売却益に25%の税率が適用されることを、Depreciation Recapture 減価償却返還と呼びます。これは減価償却を控除することによって、通常の所得税率(最高35%)で控除の恩典を既に受けているため、減価償却に起因する売却益に再度優遇税率による恩典が適用できないようにする効果があります。 年度終了後、非居住外国人(売り手)は確定申告書フォーム1040NRを提出し、不動産譲渡所得の計算をして、フォーム8828-A(後述)を添付して税金の精算を行わなければなりません。州税も、同様に確定申告を行います。 賃貸不動産を売って売却損が発生した場合、その損金はキャピタル・ロスとなり、キャピタル・ゲインとの損益通算(相殺控除)が認められます。相殺後にキャピタル・ロスが残った場合は、年間3000ドルの通常所得と相殺できます。その後残ったキャピタル・ロスは他の年度に繰り延べられます。繰延年数は無期限です。 減価償却返還の例 取得費40万ドルの不動産(建物部分が30万ドル、土地部分が10ドル)を人に貸してレント収入を得てきた。毎年、レント所得の計算上、減価償却費を控除しており、減価償却の累積額は15万ドルである。その不動産を80万ドルで売却すると、譲渡所得(長期キャピタル・ゲイン)は55万ドル〔(80万ドル-(40万ドル-15万ドル)=55万ドル)となる。もしも、減価償却を控除していなかったならば譲渡所得は40万ドルになる。この40万ドルと譲渡所得55万ドルの差額15万ドルは、減価償却累積額であることがわかる。すなわち売却益55万ドルは、不動産価格の上昇分40万ドルと減価償却分15万ドルによって構成されている。税法上、長期キャピタル・ゲインのうち減価償却に起因する金額15万ドルは、15%ではなく25%の税率が適用される。 連邦源泉税 税法上、日本に住む日本人は、グリーンカード(米国永住権)保持者でない限り、非居住外国人となります。非居住外国人が米国内にある不動産を売却する際、10%の連邦源泉税が徴収されます。10%の源泉税の徴収は、不動産の買い手側(通常その弁護士)の義務です。フォーム8828-Aが源泉税の証明書類として発行されます。 最終的な税金が10%源泉税以下であることが分かっている場合、その旨の申請を行い源泉税の減免証明(Withholding Certificate)をIRSから受ければ、買い手の弁護士から超過源泉額が払い戻されます。例えば、売値よりも取得費の金額が高いため譲渡損失になり無税であることが判っている場合、減免証明を取得すれば10%源泉税を免れることができます。売値が30万ドル以下で買い手の購入目的が主たる住居である場合は、非居住外国人の売却であっても10%の源泉税の対象外となります。 州によっては10%の連邦税に類似した規定を設けている場合があります。例えば、カリフォルニア州の3.5%の源泉税、ハワイ州の5%源泉税、NY州の6.85%予定納税など、それぞれ連邦政府ばかりでなく州政府への納税が行われない限り、売買締約および不動産登記を完了することができないようになっています。 日本での課税 日本の居住者による米国不動産の譲渡所得は、日本でも課税対象となり、確定申告の義務があります。税率は、不動産の所有期間が5年超の長期譲渡所得場合は、所得税15%、住民税5%、合計20%が適用され、5年以下の短期譲渡所得の場合は、所得税30%、住民税9%、合計39%が適用となります。米国で支払った連邦および州の税金は、日本での確定申告の際、外国税額控除の適用により日本の所得税から差し引くことが認められて、二重課税の回避が達成されます。