会計相談室
2019年11月15日 14:00:00
ヘッジ会計
「譲矢謙吉(ゆずりやけんきち)さん、わしの会社は先日長期借入金を固定金利で借りたのじゃが、家内がこれから金利が長期低金利になるので変動金利に金利スワップをしたほうがよいというんじゃ。これを経理処理するとどうなるんじゃ?」会社社長の鬣(たてがみ)は会計コンサルタントの譲矢謙吉におもむろに聞いた。
「鬣さん、会計は人々の行動を数値に置き換えたものです。したがって、変動金利へのスワップも数値に置き換えることになります。まずは、その取引は、借り入れた時の固定金利が市場金利よりもかなり低くなる状況が将来予測されるので、ヘッジとして行ったのでしょうか?」
「屁と痔がどうしたって?」
「違います。ヘッジとはある取引のリスクを相殺するために反対のリスクをとる行動です」
「それが会計処理に影響するのか?」
「ヘッジか否かでかなり会計処理が異なってきます。ヘッジであれば、ヘッジ対象の取引の損益とそのヘッジ取引自体の損益が相殺されてリスクはヘッジされていますよ。という経理処理になります。」
「何、もしもヘッジされていなかったとしたら、どうなるのじゃ?」
「ヘッジされていないデリバティブは全て時価評価になって、時価の変動が期間損益として損益計算書に計上されます」
「確かに高い利息を払う可能性を減らすために行ったからヘッジじゃが、そうするとヘッジ対象の借入金の支払利息と相殺表示じゃな」
「いえいえ、そんなに簡単ではないです」
「何が簡単ではないんじゃ?」
「まず、ヘッジのドキュメンテーションが最初からきちんとされていることが求められます。ドキュメンテーションがなければヘッジをしていたかどうかの判断がつかないためです。それでなければ、全てのデリバティブは時価評価となり、直ちに期間損益を認識することになります。
ちなみにヘッジには大きく分けて公正価値ヘッジとキャッシュフローヘッジがあります。まず、公正価値ヘッジは前回の例での借入金の時価の変化は損益計算書に計上する必要はなりません。その借入金の簿価と公正価値との差額についてヘッジをした場合、ヘッジ手段そのものを時価で計上する必要がありますが、時価評価に掛かる評価損益は期間損益ではなく包括利益に計上することになります。一方、キャッシュフローヘッジでは、先の例では、利息支払いについて期間損益計上するのと同時にヘッジ損益を支払利息の増減として毎回期間損益に計上していく必要があります。」
「何か難しいのぉ。BSのヘッジが公正価値ということで、PLのヘッジがキャッシュフローヘッジということかな。何となくわかったぞ。ありがとう。」
米国公認会計士齊藤事務所 (www.saikos.com, info@saikos.com):齊藤幸喜