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会計相談室

2008年8月21日 13:00:00

デリバティブ 2

Inage Hawaii

Q. 石油価格の上昇や利率の変動にたいして将来の不測の事態を回避するためにデリバティブ取引を使ってヘッジをするつもりです。アメリカの会計ではデリバティブはどのような会計処理を行わなければならないのでしょうか?


A. デリバティブの定義と3つのヘッジ取引の種類①公正価値ヘッジ、②キャッシュフローヘッジ、③為替リスクヘッジについて前回は解説しました。今回は具体的な会計処理について説明したいと思います。以下のような例を用いたいと思います。なお、単純化するため現在価値計算は行いません。① 元商品:2008年4月1日に石油100,000バレルを$130/バレルで購入。2008年9月30日に売却予定、同時に2008年9月30日$134/バレルで100,000バレルの先物売り予約を行う。② 会社の決算日:2008年6月30日、石油現物価格$125、2008年9月30日石油先物価格$120/バレル③ 2008年9月30日の石油価格:$150/バレル


この場合、石油資産(元商品)は、すでに会社の貸借対照表(Balance Sheet=B/S)に記載されていますので、将来の公正価値の変動についてリスクを負っています。このリスクをヘッジすることを公正価値ヘッジ(Fair Value Hedge)といいます。会計上の取り扱いですが、デリバティブの貸借対照表表示は公正価値(Fair Market Value=FMV)で行うことになっています。デリバティブの公正価値とは含み損益のことをいいます。設例では決算時に先物売り予約が$1,400,000(=($134-$120)x100,000)の含み益を抱えていますので、B/Sの資産側にデリバティブ資産が計上されます。一方、損益計算書(Income Statements=I/S)につきましては、ヘッジを行うのか行わないのか、あるいはヘッジとして認められるのか否かで取り扱いが異なります。ヘッジ会計を行っている場合には、元資産の損益とデリバティブ損益は同じ期間にI/Sに計上されることになります。


もしも、両者の損益が違う期間に発生した場合には、デリバティブの損益は、一旦、その他包括利益として資本の部に計上されることになり、その後、ヘッジ対象の損益が計上されるのと同じ期間に損益がI/Sに計上されることになります。したがって、上記の例では、ヘッジ会計を行っていない場合、元資産の石油の含み損益にかかわらず、デリバティブ利益$1,400,000がI/Sに計上されることになります。ヘッジ会計が認められた場合、ヘッジ対象の石油の含み損$500,000(=($125-$130)x100,000)が損失計上されるのと同時にデリバティブ含み益$1,400,000のうち$500,000のみが利益計上されます。残額の$900,000はその他の包括利益(Other Comprehensive Income)として資本の部に計上されます。石油売却日およびデリバティブ決済日には、ヘッジ会計を行っていない場合、石油売却益が$2,500,000(=($150-125)x100,000)でデリバティブ損失が$3,000,000(=-$1,400,000-$1,600,000)となります。ヘッジを行っている場合、石油売却益は同じ$2,500,000ですが、デリバティブ損失が$2,100,000(=($1,600,000 + $1,400,000 - $900,000)となり、ネットの石油売却益が$400,000の利益となります。


上記の例で、①のみを以下のように変更したいと思います。① 商品: 2008年9月30日に石油100,000バレルを購入することを2008年4月1日に決定した。同時に$134/バレルで100,000バレルの先物買い予約を行った。


この場合、元商品に関しては、購入金額が確定していないため何もB/Sに計上することができません。また、決算日にデリバティブの含み損益は計算できますが、決済日まで確定損益は計算することができません。このように、決済日までB/Sに計上することのできない元商品の将来の変動に対するリスクを回避する手段をキャッシュフローヘッジ(Cash Flow Hedge)といいます。設例では決算日に先物買い予約が含み損$1,400,000 (=($120-$134) x 100,000)を抱えていますので、B/Sの負債側にデリバティブ負債が計上されます。


I/Sにつきましては、ヘッジ会計を行っていない場合、デリバティブ損失$1,400,000がI/Sに計上されることになります。ヘッジ会計が認められた場合、全額、その他の包括利益として資本の部に計上されます。石油購入時およびデリバティブ決済日には、ヘッジを行っている場合、石油購入金額は$15,000,000 (=$150x100,000) にデリバティブ利益部分の$1,600,000 (=($150-$134) x 100,000) がキャッシュバックとなるため、ネットの$13,400,000 (=$15,000,000 - $1,600,000) が石油取得原価になります。ヘッジ会計を行っていない場合、石油購入金額は$15,000,000でデリバティブ利益が$3,000,000 (=$1,600,000 + $1,400,000) がI/Sに計上されることになります。

 

米国公認会計士

大島斉藤会計事務所

齊藤幸喜

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