top of page

会計相談室

2008年7月15日 13:00:00

デリバティブ1

Inage Hawaii

Q. 石油価格の上昇や利率の変動にたいして将来の不測の事態を回避するためにデリバティブ取引を使ってヘッジをするつもりです。アメリカの会計においてデリバティブ取引で注意しなければならない点は何でしょうか?


A. 石油価格、市場金利あるいは外国為替等の将来の不確実な変動に関わるリスクを回避する手段や方法をヘッジといいます。ヘッジには様々な取引形態が考えられますが、例えば、現在所有している資産や負債の将来の価格変動を現時点で固定してしまう方法や現在固定している価格や利率を変動させること、あるいは現在は所有していなくても将来購入するまたは売却する際に生じる価格変動や利率等の変動を回避することなどが考えられます。ヘッジは様々な方法で行われますが、デリバティブ商品を用いることが一般的に考えられます。


デリバティブは金融派生商品とも呼ばれていますが、定義は①基礎数値と想定元本または支払条件があること、②当初必要とされる金額がゼロかかなり低い金額でよい、③差額決済を行えるの3つを全て満たすものです。デリバティブの利用方法には、ヘッジと投機(スペキュレーション)があります。①基礎数値とは、例えば石油価格や株価、金利あるいは気温のような派生の元となる商品(元商品)を数値で表現できるものです。想定元本とは基礎数値を使って計算した金額です。例えば、元商品が$130/バレルの石油100,000バレルの場合で、先物価格が$140/バレルで100,000バレルを売り取引したい場合、$140が基礎数値、$14,000,000 (=$140x100,000バレル)が想定元本になります。②当初必要な金額がゼロかかなり低い金額とは、上記$14,000,000の取引を行うにあたって、初めに$14,000,000の現金を用意する必要がなく、証拠金をわずかながら入れておけばよい取引です。あるいは、もしもオプション取引だったならば、オプション プレミアムを支払えばよいというものです。③差額決済とは、例えば、上記例で現物を持っていない場合、2ヵ月後の決済時には、現物価格が$135だった場合$500,000=(($140-$135)x100,000バレル)の精算になります。一旦、$13,500,000(=$135x100,000バレル)を購入して、$14,000,000($140x100,000バレル)の売却をするという取引を必要としません。また、デリバティブと認められない取引は、通常の証券取引、通常の商品の購入および売却、保険取引などが米国会計基準(SFAS133)で明示されています。


ヘッジ取引は①公正価値ヘッジ、②キャッシュフローヘッジ、③為替リスクヘッジに分類されます。①公正価値ヘッジとは、すでに会社のB/Sに記載されている資産負債(元商品)のヘッジ、または、B/Sに計上はされていなくても価格が確約されている取引のヘッジをいいます。B/Sに記載されている資産負債は将来の公正価値の変動についてリスクがあるので、公正価値ヘッジとよばれます。購入価格がすでに確約されているような取引は、評価額が常に測定可能であるため、B/Sには計上されていなくても公正価値のヘッジに含まれます。


公正価値ヘッジの例としては、売りヘッジが考えられます。現在保有している商品を将来売却する場合、市場価格の下落が予想される場合に先物で売り価格を決めてしまいます。②キャッシュフローヘッジとは、未だB/Sに計上されていない元商品の将来の変動に対してリスクを回避するヘッジをいいます。B/Sに計上されていない、すなわち、いくらで取引を行うか決済日まで測定できない取引なので、キャッシュフローの変動のリスクを回避するためにヘッジが実行されることになります。例えば、買いヘッジがあります。将来商品を購入する予定があるが、数量が未定で将来値上がりが予想される場合、先物取引で現時点で買い価格のみを決めてしまいます。③為替リスクヘッジとは、外国通貨の価値の変動のリスクを回避するヘッジで、さらに取引の内容によって公正価値ヘッジとキャッシュフローヘッジに分類されます。


会計上の取り扱いですが、デリバティブの貸借対照表(Balance Sheet=B/S)表示は公正価値(Fair Market Value=FMV)で行うことになっています。損益計算書(Income Statements=I/S)につきましては、ヘッジを行うのか行わないのか、あるいはヘッジとして認められるのか否かで取り扱いが異なります。ヘッジ会計が認められた場合、公正価値ヘッジのデリバティブ損益は、ヘッジ対象の損益が計上されるのと同じ期間、すなわちデリバティブ損益の発生した期間にI/Sにヘッジ対象となった科目で計上されることになります。それ以外はその他の包括利益として計上されます。キャッシュフローヘッジの場合には、デリバティブの損益は、一旦、その他包括利益として資本の部に計上されることになり、その後、ヘッジ対象の損益が計上されるのと同じ期間に損益がI/Sに計上されることになります。


ヘッジを行ってその取引についてヘッジ会計が認められるためには、ヘッジの対象や、手段、リスク、有効性の評価方法および管理方法や戦略の明確な文書を具備することや有効性の評価を定期的に実行しなければなりません。この要件を満たしても有効性がなければ、その有効性に応じて有効でない部分又は全額についてヘッジ会計は採用できません。すなわち、直ちにデリバティブ損益をI/Sに損益計上することになります。


米国公認会計士

大島斉藤会計事務所

齊藤幸喜

bottom of page