会計相談室
2018年12月3日 14:00:00
アメリカの事業から撤退する方法
「アメリカの事業から撤退する方法を教えてくれんか」会社経営者の鬣(たてがみ)が会計コンサルタントの譲屋謙吉(ゆずりやけんきち、通称、譲謙ゆずけん)に尋ねた。
「アメリカに進出してきたものの予想通りの売上が上がらずオペレーションがうまくいかず撤退する場合があります。法律的な手続きとしては、会社清算を決定した日から1か月以内にForm966という清算の届け出をIRSに報告します。そして最後の法人税の申告書を申告したのち、州での清算手続きに入ります。州から清算の終了のお知らせがきたら完了します。
法律的な流れはシンプルなのですが、アメリカの撤退には十分な準備期間が必要です。通常日本の撤退期間に比べるとかなり長い期間を必要とします。目安としては最短で3か月、通常1年から2年を要すると考えてください。一般的に撤退は外部の専門家とチームを組んで進めます。弁護士、会計士、人事コンサルタントなどです。
撤退に時間がかかる理由は従業員の処遇の解決に時間がかかるからです。ここを拙速に行うと訴訟に発展したりして会社の解散ができなくなります。また、リースの中途解約は通常できないことから撤退の期間を長引かせる要因の一つになることがあります。従業員については日本の退職金に似たセべランスペイ(手切れ金)というものを勤続年数に基づいた一定の計算式に基づいて算出した金額を支払うことが一般的です。ただし、会社を訴えないことに同意したサインをした場合に渡します。
福利厚生対策としては、アメリカではコブラとよばれる退社する従業員に対して一定期間、本人が希望すれば医療保険を継続するという選択権を与えなければならない制度があります。コブラは原則として100%本人負担ですが、場合によっては会社が存続している期間の医療保険の支払いの一部の負担をすることもあります。さらに、新たな就職口探しのコストを負担してあげることもあります。訴訟のリスクがある場合や思わぬ入金や出金に備えて休眠状態の会社を1年間置いておくこともあります。そして、何も起きないことを最終的に確認してから法的な清算をすることもあります。銀行口座は思わぬ入出金に備えて1年間は保持しておいた方がよいでしょう。」
米国公認会計士齊藤事務所 (www.saikos.com, info@saikos.com):齊藤幸喜