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会計相談室

2009年5月31日 16:00:00

後発事象について

Inage Hawaii

Q. 決算の後に得意先が倒産し売掛金が焦げ付いてしまいました。このような場合、財務諸表決算の監査対策で気をつけることは何ですか?新しい米国会計基準(SFAS)第165号が今中間期から有効になると聞きましたが、監査人はどのような視点で監査を実施するのでしょうか?


A. 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー表に代表される財務諸表は、通常、決算日時点の財務数値に基づいて作成されます。しかし決算日以降に起きた事象が財務諸表の発行前で、財務諸表の利用者の意思決定に重大な影響を与えるような場合、財務諸表自体の修正や追加的な開示を必要とすることがあります。このような決算後に起きた事象を後発事象と言います。後発事象には、二種類あります。


第一のタイプは、貸借対照表日時点で存在していた事象の証拠を追加的に与える後発事象です。これは財務諸表の予想数値の正確性を測定する上で影響を与えます。財務諸表を発行する前に入手されたすべての情報は経営者によって利用され、予想数値の算定の上で反映されなければなりません。もし予想されていた数値に変更があった場合には、この変更を財務諸表上に反映させる必要があります。


後発事象が債権や棚卸資産の回収可能性、あるいは負債の支払金額に影響を与えている場合、通常、財務諸表の修正が必要になります。なぜなら、こうした事象は長い期間をかけて生じるもので、決算日にはすでに生じていたと合理的に推定できるからです。財務諸表の修正を必要とするような後発事象とは、例えば、売掛金の貸倒れによるロスが決算日後の得意先の倒産を原因として起きた場合が考えられます。この貸倒れは、決算日にはすでに生じていたと推定することができます。したがって、財務諸表は発行される前に修正が加えられるべきだと考えられます。


また、決算日前に未確定であった訴訟が、決算日後に和解し金額が確定した場合、決算日以前に計上されていた負債や費用の金額の修正を行うことは適切な調整といえるでしょう。


第二のタイプは、決算日後に発生し、決算日時点の状況とは全く関係がないと考えられる後発事象です。例えば、貸倒れが、得意先の火事や洪水など災害や天災によって引き起こされた場合、決算日に貸倒れが発生していたとは推定されないので、決算日の売掛金に調整を加えることは適当ではありません。また、後発事象が有価証券の市場価格の変化である場合にも、財務諸表の調整はするべきではありません。なぜならこれらは新たな状況の変化であって、決算日には生じていたとは推定できないからです。


これらの後発事象は、性質の重要性から財務諸表の利用者に対して誤解を与えないために財務諸表への開示が求められます。この事象の重要性が財務諸表の利用者にとって極めて高い場合には、あたかもこの事象が決算期に起きたかのような貸借対照表を作成し、付属資料として期末決算の貸借対照表に並列開示することが望ましいものと考えられています。


開示すべき第二のタイプの後発事象の例は、以下の通りです。

a. 社債の発行または株の発行

b. ビジネスの買収

c. 決算日後の訴訟の解決

d. 火災または洪水による工場や棚卸資産のロス

e. 決算日以降に発生した大手顧客の災害による売掛金の貸倒れ

f. 資産負債の公正価値の変化や外国為替の変化

g. 重大な確定債務や偶発債務の新たな発生


●後発事象に対する監査人の手続き

独立監査人は、通常、決算日の財務諸表について意見を表明しますが、そこには、経営者の後発事象の取り扱い方法が適切かどうかの評価も含まれます。


決算日後に監査人は様々な監査手続きを実行しなければなりません。この期間を後発期間と言い、決算日から財務諸表の発行日までを指します。この期間は、監査が実際にどれくらいの期間を費やすかにかかっており、非常に短い期間から数ヶ月まで様々です。すべての監査手続きは一度に実施されるものではありません。決算日前に終了するものと、後発期間中に行われるものとに段階的に分けて実施されます。


後発期間中に行われる監査手続きの例としては、(a)適切な締め作業が行われているかどうかの調査(b)資産負債の決算日現在の評価についての情報の入手調査などがあります。後発期間の終盤に監査が完了段階に差し掛かると、監査人は監査上と財務諸表上の未解決事項の解決のみに注意を集中していきます。したがって、通常、それまでに終了した監査手続きや解決した事項を再度見直すことはありません。監査人は財務諸表の修正や開示を必要とする決算日後の後発事象の発生についても監査手続きの完了間近で実施します。監査人は一般的に以下の手続きを実施しなければなりません。


1 直近の財務諸表を査閲する。その内容を監査対象となっている財務諸表と対比して分析する。これらの分析を有効にするため、比較した財務諸表と同じ基準で作成されていることを経営者や会計責任者に確認する


2 経営者や会計責任者に以下のような質問をするi) 質問日までに重大な偶発債務やコミットメントがないかii) 質問日までに資本勘定、負債または運転資本が大きく変動していないかiii) 仮決定していた金額に変化がないかiv) 通常ではありえない調整が決算日から質問日までの間に入っていないか


3 株主議事録、取締役会議事録や関係する委員会議事録を読む。もし議事録が入手できない場合には、質問をする


4 会社の弁護士に訴訟やクレームについて質問をする


5 経営者(CEOかCFOまたはそれと同等の立場の人)の確認書を入手する。日付は監査報告書の日付より後であること。経営者の確認書には、財務諸表に影響を与えるような後発事象が起きたかを記載する必要がある。監査人は、経営者の確認書に重要な事項(上記1から3および事項5に至るような事項)はすべて監査人へ報告した旨を加える


6 これまでの手続きで必要と考えられる追加の質問と手続きを行い、必要のない手続きは終了する第二のタイプの後発事象が非常に重要な影響を与えていると監査人が判断した場合には、監査人はそのことについて監査報告書の一部に記載することがあります。


なお、米国会計基準(SFAS)第165号「後発事象」が2009年6月15日から有効になります。この基準によって、今まで監査人の後発事象の調査の範囲は、財務諸表の発行日までとされていたものが、公開会社やそれに準ずる会社は財務諸表の発行した日までとなり、それ以外は、財務諸表の発行が可能になった日までとなりました。理由は、非公開会社では、財務諸表の発行日というものが、特定の一日に一般的に定まらないことが多く、監査の終了日や財務諸表の発行日が実際に複数日になることがあるため、公開会社と非公開会社で、後発事象の期日を分けることになりました。財務諸表の発行した日とは、株主に幅広く配布された日で、株主以外の財務諸表利用者にも利用が可能になる日のことです。財務諸表の発行が可能になった日とは、一般に公正妥当と認められた会計基準にのっとった財務諸表が完成し、経営者や取締役会または重要な株主から、財務諸表の発行に関して必要な全ての承認を得た日をいいます。


齊藤幸喜

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