税金相談室
2007年3月30日 22:00:00
退職年金の税務
質問: アメリカで定年退職してアメリカと日本の両方から支払われる退職年金で生活することになりました。税金はどうなりますか? 答え: 年金が米国と日本の二つの国から支払われるわけですから、米国と日本でどのように税金が課されるか考える必要があります。その際、日米租税条約と日米二国の国内法を検討しなければなりません。 ●日米租税条約 新日米租税条約第17条(旧条約第23条)は、社会保障年金、退職年金、保険年金などを、国境を越えて支払われた場合、年金の支給国ではなく受領者の居住地国においてのみ課税されると定めています。従って、米国の居住者が日本から受け取る年金は、日本の課税は免除され、米国の課税だけが発生します。逆に、日本の居住者が米国から受け取る年金は、米国では免税となり日本においてのみ課税されます。 日本国外に支払われる退職年金は、日本の20%源泉徴収税の対象となります。日本の住民票をはずして米国に居住する日本人が日本から退職年金を受け取る際、日米租税条約第17条を適用して日本の20%源泉徴収税の免除を受けることができます。そのためには、所轄の税務署に源泉徴収義務者(支払者)を経由して「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。支払者とは日本の社会保険事務所、各種年金基金、保険会社などの金融機関のことです。届出書には米国で納税を行っている適格居住者であることを示す「居住者証明書」(IRSフォーム6166)を添付します。「居住者証明書」は申請書(IRSフォーム8802)をIRSへ提出することにより入手できます。 日本に住む日本人が米国から年金の支払いを受ける場合、日米租税条約の適用により30%の米国源泉徴収税を免税扱いとするには、必要事項を記入したIRSフォーム W-8BENを源泉徴収義務者(支払者)へ提出する義務があります。IRSフォーム W-8BENは、米国源泉所得の受益者が外国人であることを宣誓証明する用紙で、租税条約の低減税率の恩典を受ける適格国籍保持者(日本人)であることを示す証明書です。当証明書は、日本の場合と異なりIRS税務当局へは提出されず、年金支払者であるソーシャル・セキュリティー・アドミニストレーション(社会保障局)、年金基金、各種金融機関によって保管されます。また、相手国(日本)の税務署が発行する居住証明書も必要としません。 ●米国の税法 米国の公的年金、企業適格年金、保険年金などの年金基金からの分配金のうち、IRSフォーム1099-Rに課税対象と記載された金額は、通常の連邦および州の所得税の対象となります。米国居住者は米国市民と同様、毎年確定申告で退職年金を報告して、6段階の累進税率で計算された連邦所得税を支払います。州によっては退職年金について一定の州税非課税措置を定めている場合があります。毎年、年明けに年金支払者によって発行されるフォーム1099-Rに課税給付額として記載された金額を申告書に報告します。 米国居住者が日本から受け取る年金の米国での課税については、米国税法上、2004年までは非適格年金制度からの分配であるとして非課税扱いにすることが可能でした。2004年10月22日に成立した税制改正で課税強化が図られ、同日以降に支払われる外国年金の給付額は連邦所得税法上、全面的に課税対象となりました。 ●日本の税法 日本では、年金は給付額から年金控除額を差し引いた金額が雑所得として通常の所得税が課税されます。税率は所得税が10%~37%の4段階の累進税率であり、住民税が5%~13%の累進税率です。年金給付時に10%源泉徴収税が課され、源泉徴収税額が総合課税の税額と比べて過不足が生じた場合は、確定申告で精算することになります。 国民年金、厚生年金、共済年金、適格企業年金、外国年金を含む公的年金については、経済的稼得力が減退する引退者の生計手段とするための給付である年金という所得の性質を考慮して、その税負担を軽減する目的で、公的年金等控除という一定の非課税枠が定められています。年金受給者の年齢の区分、65歳年齢以上と65歳未満、および、年金給付額の区分により、給付額の最高25%が公的年金等控除として差し引かれます。米国のソーシャルセキュリティー手当、適格企業年金も公的年金に含まれており、公的年金等控除の対象となります。 生命保険会社などとの契約による個人年金を受け取った場合にも、やはり雑所得として税金がかかりますが、その所得金額は公的年金等の場合と異なり、「個人年金の収入金額、マイナス必要経費」の算式で計算します。この場合の必要経費とは、すでに保険会社等に払い込んだ保険料をもとに計算します。