会計相談室
2009年8月18日 13:00:00
売掛金関係の不正取引について( 3 )
Q. 売掛金関係の不正取引とはどのようにして行われるのでしょうか?例を挙げて教えてください。
A. 今回は売掛金について説明します。
1.資産の横領に関する不正
①ラッピング(Lapping):従業員がお客さまから受け取ったお金を使い込んだ場合に隠す方法です。あるお客さまからの入金を横領した後、第2のお客様から受け取ったお金を第1のお客さまからの入金として処理します。第三のお客さまからの入金は、第2のお客様の入金処理にあて、これらを次々に繰り返します。この入金遅れによる穴埋めの処理は、不正が発覚するか、横領した現金が返金される、または売掛金が貸し倒れ償却されるまで続きます。ラッピングの兆候は、以下のような通りです。
お客様のクレームの増加l 説明のできない売掛金残高の増加l 売掛金残高を確認した時に説明のつかない差額が生じていた
お客さまからの入金日と売掛金の消込日に差がある
デポジットスリップの名前と売掛金消しこみのお客さまの名前が異なる
売掛金担当者の生活態度が急に変化した(急に派手な生活になった)
入金担当者と入金処理者が長期休暇をとらない
②長期または売掛金の貸し倒れ処理の後日回収:一度、貸し倒れ処理した売掛金は、その後に回収した場合に不正を行うことが容易になりがちです。なぜならば、会社は、長期の売掛金や一度貸し倒れ処理した売掛金をきちっと追跡管理しないことが多いからです。
③承認のないクレジットメモ:もしも、回収に責任のある者が、承認のないクレジットメモを発行できる立場にあった場合、その者は、入金を横領し隠すことが容易にできます。そのような立場を利用した不正の兆候は以下の通りです。
お客様のクレームの増加l 売掛金残高を確認したときに説明のつかない差額が生じた
急に生活態度が変化した(急に派手な生活になった)売掛金担当者がいる
異常な説明のつかないクレジットメモが発生している
異常な承認のないディスカウントが発生している
異常な通常生じないまたは承認のない売掛金の貸し倒れ償却を行っている
2.財務諸表の改ざんにかかわる不正:
①架空の売掛金計上:架空の売掛金計上は、通常架空の売り上げ計上とセットで行われます。これは、資産の横領ではありませんが、売上高の目標や売上高ベースの報酬が設定されている場合に起こりうります。
②売り上げの期ずれ計上:出荷や請求書および書類を操作して、不適切に期を前倒しして売り上げを計上することです。この兆候としては以下の項目が挙げられます。
サービスが提供される前に売り上げを計上する
売上原価やサービス原価を後日計上する
偽請求書でいったん売り上げを計上し、後日、売り上げを撤回する
合法非合法の売り上げを計上するために締めを遅らせる。この場合、売り上げは計上しても費用は計上しません
③条件付き売り上げ:取引の条件が完全に満たされていないため、所有権に関する権利とリスクが購入者に移っていない販売取引です。この取引の典型例は条件付き売り上げと委託販売取引です。これらの取引は、それ自体は正常な商取引ですが、商品の所有権が相手方に移る前に売り上げを計上した場合、不正取引とみなされます。
④工事進行基準での不適正な収益認識:工事進行基準は最善の予測に基づいて売り上げを計上します。したがって、計上された売り上げが不正かどうかは、経営者の意思次第の側面があります。工事進行基準の売り上げは、ほとんどが予想に基づくため、不正か否かの判定は非常に困難です。工事進行基準は、建設業とR&D(研究開発)契約に適用されます。不正の手法は、以下の二通りです。
経営者が、本来の予想とはかけ離れた予想値を根拠とする
根拠のない差額調整を工事進行基準に対して行う
齊藤幸喜